寝込んでも喜ばれ
 私も3年ぶりと思われる派手な風邪を久しぶりに引いたし、とにかくこのあいだの急な冷え込みで、それまではなんとか持ちこたえていた人々も一気に風邪や持病が出てきている……ということで。
 また変なことを思い出しました。

 後でちゃんと出典は示しますが今はちょっと私の怪しげな記憶で語るのをお許しください——「風邪をひいて寝込むご夫君について」。
 塩野七生先生の、エッセイにある話なんですけども。

 先生がまだご結婚されていた当時のことですが、たまーに、旦那さんが風邪をひいて寝込むと、われながら実に甲斐甲斐しく彼の介抱をする、というお話。

 ご夫君が寝込んだとあれば奥様があれこれ介護——介護じゃない看護をなさるのは不思議もなかろう、とお思いの方も多いでしょうが、そこはそれ塩野先生。自分の感情、心の動きをも、作家の目でじっと観察なさるんですね。

 で、甲斐甲斐しく看護、介抱するのはいいとしても、なんとなくその時の心の底には「喜び」がある、とおっしゃる。
 まめまめしく、白湯を飲むか、熱はどうか、食事はどういったものなら食べられそうか、薬は飲んだか、寝具は替えたほうがいいか——、ありとあらゆる神経を傾けて彼を見る、という。

 いーじゃないですかそこで面倒がってベッドに転がしておきゃいいなんて言うようになったら困るじゃないですか、と思いながら読んでいくと、先生、ちょっと意外なことをおっしゃる。

 あとできっちり引用したいのですが、ひとまずここでは、記憶から(怪しいなあ;;)主旨を申しますと
「普段は仕事だ趣味だ人付き合いだと言って忙しくしている人を——もちろんそれをいちいち束縛するわけでもないし(夫婦間のことでもあり)不快に思うわけでは全くないが。
 ただ、熱を出して寝込むとなればこれはもう仕事も友人も趣味も介入できない領域で、ここはまったく細君の占有するところである」
 
 ……なるほど、それはごもっとも。

 逆に言うと、寝込んでくれでもしない限りはその人を「独占」などできない。それができるようになったという「喜び」の感覚がある——。

 なんと申しましょうか実に理性的で知性高く、ものの見方は鋭く言葉も鋭い、いわば「女傑」のイメージが塩野さんにはあるのですが、そういう人の、なんとも可愛らしい一面を見てしまって、しばらくページを開いたままニヤニヤしていたという思い出。

 人を束縛するなどとんでもない、という闊達(かったつ)な人でさえ、たまーに旦那さんを「独占」できると嬉しくなる、というような、そーゆー可愛いところがあるんだなぁ、と思ったらもうニヤニヤが止まりませんでした。(^^;)

 そういうわけで、先生、世の男性諸氏にはたまには寝込むのも「奥さん孝行」ですよとおっしゃるわけですが、しかしこれもあんまり長期にわたるとまた事情が変わるので、3日くらいでいいや——という「結論」へなだれ込むってあたりが。なんとも(笑)

 しかし、この「寝込んだときくらいしか、一人の人を独占なんてできないもんだよね」という指摘はなんとなくそのまま脳内に残っておりまして。

 ………同人誌の世界では確かに、「鬼の霍乱」的なエピソードから物語が展開するのがひとつの「定型」にまでなっていますが、あれは当然のことだったんだなと妙に腑に落ちました。

 おそらくは誰にでも「占有」願望はあるんでしょうが、これが現実にはほぼ「ありえない」ことを示し、現実においては、まあ寝込んでもらうくらいしかないよね、ということでもあるんでしょう。

 しかもなおかつ重篤な病ってんでもなく、さらには「3日もあればいいわ」(長期化するとまた心情は変わる)ってところがもうねー。ああ人間てそうなんですよねー、と、しょーもねーなと思いながらも笑ってしまうところです。

 そういうわけですので、日頃おいそがしい方は、たまには寝込んでお世話をかけるのもかえってコミュニケーションになることでもあるようですから、3日ほどをめどに、ゆっくりなさってくださいませ(笑)

 どうも私どもには寝込むとか体調を崩すとか風邪をひくとかっていうと、罪悪感があったり、「悪い事」という思い込みがあったりしますが、でも、自分はすでにしんどいことになってるんですから、そんなことは考えずに——たまには自分を「占有」させてあげる、というくらいのやさし〜いお気持ちで、心置きなく、寝込んでください(笑)
 
 
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