「女性と茶の湯のものがたり」


 たぶん現在ではほぼ死語と思われますが——私が子供の頃にはまだ「花嫁修行」という言葉は生きておりまして、で、その典型としてはお茶、お花が代表的な項目にありました。

 ということで、お茶=茶道なんていうと「女性の領域」にあるものというイメージでしたが、じっさいはそうではなく、お茶は「男性のもの」であり、明治までは女性はほぼ社会的には「閉め出されていた」というのが実態。

 じっさいこういう、男のものだの女のものだという「イメージ」ってほんっと、いいかげんですよね。
 私はむしろお茶は女性がやるものだと思っていたけれど、「組織」としては、社会的には「男社会」だという現実。
 
 もうかなり以前ですがNHKの「ようこそ先輩」という番組で、京舞の井上八千代さんが母校の小学校で特別授業、というのがありまして。
 そのうちの小学生の男の子が「(舞などは)女がやること、こんなことはいや」だとゴネてまして。
 ああくだらねえなあ、と思ったことを思い出します。

 あんな年頃で(というより、あんな年頃だから、か)すでに、ああいうくだらない概念はぎちぎちに人を縛ってるんだな。と。
 なにがくだらないかって、男がやるものだとか女がやるものだとかいうのは、なんの実態も根拠もない「幻想」だから。
 ご本人の「思い込み」だけなのに、それがさも当たり前の常識であるかのように「他人に押し付ける」ところ。

 舞踊は女のするものってねえ、アンタそれ、舞踊に命かけてるおじさんおにいさんたちに同じこと言えんの? と、本気でむっとしてました。(^^;) ←おとなげない
(脳裏には、例えば、玉さまがイメージされていた)

 ということを思い出したほど、この「お茶」のイメージもずいぶんいいかげんだったな、と思いました。

 興味深いのは筆者の依田徹さん。
 とあるお茶席でのひとことが、本書のきっかけになったとか。

 席主の女性から依田さんご自身が言われたんだそうですが、
私たちは男性からお茶をお預かりしているだけです
 と。

 それはお世辞あるいは謙遜だったかもしれないが、ほんとうにそれは「妥当」だろうか。——という疑問から、この本へつながっていったということで。

 いやもう、ありがたい世の中になったねえ、と思いました。
 フェミニストも、自分たちの権利その他を訴えるのもいいんだけれど、たまには、こういう殿方に感謝の意を表してもいいんじゃないかなあ。
 こういうしなやかな発想が、少しずつでも現れるようになったというのは、ありがたいことだと思ってます、個人的には。

 ともあれ。
 本書は「お茶の女性史」として読める労作ですが、でもけっして堅苦しいものではなく、全12話のアンソロジー、といった趣きで語られていくので、読みやすく、親しみやすいのです。

 千利休の後妻となり、利休を助け、またその茶道確立にも(じつは)大きな影響を残している千宗恩が第1話の主人公。
 そこから、女性茶人をピックアップしながら、江戸時代、明治大正昭和、現在にまでその歴史が綴られていきます。
 正史は「人殺し名鑑」ともいえますが、いわゆる「正史」からちょっと外れたところにある歴史もまた、見るべきものと思います。

「しばしば言われることだが、女性の茶に関する資料はとても少ない。……しかしながら、記録が残っていないことは、決して「無かった」ことを意味するものではない。むしろ資料に残らないところにこそ、女性の茶の実態があったのではないか」



 依田さんのお言葉ですが、そのとおりだと思いますねえ。
 水屋に詰める人がなければ茶事は成り立たない。記録は残っていなくても、その働きが無かったことにはならない。
 そういうものだと思いますね。

 私も「歴史」を見るのには、下世話、俗、卑俗、といわれるものを主題にした本を読むのが好きで、ときどきとんでもなく「下品」なことを知っているのを他人から驚かれたりしますが、——でも、人間の姿とか、当時の人の「感覚」は、「正史」の記録よりも下世話なところにこそ生きていると思うんですよね。
 下品とか低俗とかいわれるもののなかに、人の「実感」がある。そうおもいます。

 だから当時のトイレ事情に(へんに)くわしいとかフェノロサには否定された浮世絵大好きとか、色街の話をけっこう知ってるとか(『男でも女でもよし町と言ひ』)、川柳、都々逸の本を読むとか、妖怪譚が好きとか……あげくのはてには春画に(へんに)くわしいのがばれてドン引きされるとか。
 でもそういうところに、「生の人間」の「歴史」があるんだからしょーがない。(^^;)

 そういうなかでも女性についての歴史は、とにかく無視され記録されずにきただけに、ちょっとでも手がかりがあると聞くとついつい、手を伸ばしてしまう。

 私はそういう関心から本書を手に取りましたが、じっさいご自分がお茶をなさる方々には、さらに面白い、興味深い本なのではないかと拝察いたします。

 とにかく少ない史料をまとめる苦労は相当なものと思われますが、そのあたりのことは、飄々としてみえる文章の奥に隠れているようです。
 奥ゆかしいことですが、「ぱっと目につくものではない」からって無視しないで、そのあたりも、味わっていただきたいなと、僭越ながら思った1冊。
 
  
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